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■堕ちた天使の舞う夜に:長良川広久さん作

第2章 絶対に私の邪魔をしないで

【2】

 思わぬタイムロスを食った――北斗にとっては幸運なハプニングだったが――セルヒオたちは、早足で本来の目的地である歓楽街の裏町に向かった。
 ここにある外国人パブの一軒を、例のマフィアが麻薬取引の根拠地として使っているという。これは北斗が刑事として手に入れた情報だった。表の警察も、最近になって急速に勢力を拡大してきたマフィアに対しては強い警戒を抱いているのだ。
 マフィアの黒服がいないか、周辺にさりげなく注意を配りつつ歩く二人。会話はほとんどない。
 無言で歩き続けること数分、間が持たなくなった北斗の方が、しびれを切らして口を開いた。
「……なあセルヒオ。エレーヌさんとどういう関係なんだ? ずいぶん心配されてたみたいじゃないか」
「他人に語ることではない」
 取りつく島もないセルヒオの返答に、北斗はムッとした顔になる。
 それが次の瞬間には、焦ったような戸惑ったような顔に変わっていた。
「お前こそどういう関係だ。さっきはひどく浮かれていたな」
「いっ? どうって、それはその……それだ」
 ひどく直截的なセルヒオの指摘に、目をそらしポリポリと頬をかく北斗。照れくさそうに言葉を付け足す。
「まあ、なんて言うか……知人以上おつきあい未満、ってところかな? 
 ……エレーヌさんが同じように想ってくれてるかどうかはわからないけどな」
 以前、六本木ヒルズ周辺で起こった小さな事件で、エレーヌと北斗はコンビを組んで解決に当たったことがある。それまではただの知り合いのギルドメンバー同士に過ぎなかったのだが、その一件以来、なんとなく距離が近づいていた。
 まるで初めて恋人を作ったティーンエイジャーのような北斗の言葉に、セルヒオはかすかに微笑んでみせる。
「……フ、そうか。あの女性(ひと)にはこれまでそういう浮いた話はなかったのだがな」
 ――セルヒオが、微笑んだ。
 北斗は自分の目を疑わずにはいられなかったが、セルヒオは確かに、どこか楽しげな微笑みを浮かべたのだ。
 これまで一度も「楽しい」「嬉しい」といった感情を見せたことのなかった、この鉄面皮のメキシカンが。
「これまで? ってそれ、いつからの話だ?」
「俺が知り合った4年前以来、そういった話は全く聞いていない」
「本当か? ――あれだけの美人なのに?」
 意外そうに問いを重ねる北斗。別に想いを寄せているからというわけではなく、客観的に見てもエレーヌは美女の部類に入る。
 少し垂れ下がった目尻や母性的な微笑みは、柔和な物腰とあいまって、整った華やかさよりも飾り気のない穏やかな温かみを感じさせる。それが彼女の最大の魅力でもあった。
 真面目な顔に戻ったセルヒオが、感情を押し隠した平板な調子を取り戻して北斗に答える。
「俺は彼女のプライバシーに触れる立場にはない。本当かどうかは、彼女に直接聞いてみればいい。お前はそれができる立場なのだろう」
「そ、そりゃそうだけど……待てセルヒオ、あれを」
 北斗の声の調子が一瞬にして変わった。今までの浮ついた会話からは想像もつかない、緊迫感をはらんだ硬い声だ。
 北斗が指差す先には、薄暗い通りをスタスタと歩くパンツスーツ姿の女がいた。
 ジャケットは夜目にも鮮烈な赤、スリムなパンツは黒。パンプスのヒールは低いが、背は比較的高いように見える。背中まで届く長いブロンドが、歩みにつれて弾むようにサラサラと揺れている。
 背の高さ、そして美しい金髪の後ろ姿――あの日に見たエンジェルの姿に酷似していた。
「尾けてみるか?」
「そうだな」
 エンジェルだと断定できてはいないが、確かめる価値はある。うなずき合ったセルヒオと北斗は、一定の距離を取りつつブロンドの女の尾行を始めた。
 ブロンドの女は、全く立ち止まることなく一定のスピードで歩き続けている。最初から目的地が決まっている歩き方だ。そして女の目的地は、どうやらセルヒオたちの目的地と同じ場所のようだった。尾行を続けるうち、例の組織が使っているパブはどんどん近づいてきている。
 何度目かに女が角を曲がり、見失うまいとした北斗が小走りに駆け寄っていったとき。
「……コソコソしてないで、顔見せたらどうなの?」
 苛立ちを隠さないネイティブの英語と共に、たった今曲がったはずの角から女が戻ってきた。
 きつい印象のトルコストーンブルーの瞳、よく通るアルトの声――やはりエンジェルだ。
 北斗がギクッとなって立ち尽くす中、セルヒオは表情を変えないままにつかつかと歩み寄る。
「どこへ行く気だ」
「あら、あんたたちなら見当はついてるんじゃないの? そこにいる相棒、ポリスマンでしょ? だったら連中の情報くらい知ってるはずじゃない」
 うっとうしそうに長いブロンドをかきあげて、エンジェルは小馬鹿にしたように続ける。
「それにしてもお粗末な尾行ね、ポリスマン。5分は前から気づいてたわよ」
「何? そんなバカな」
「浅黒い肌で長身のヒスパニックと、特徴のないスーツに地味な眼鏡のジャパニーズ。それでいて2人とも足取りには隙がない――どっかで見かけた組み合わせよね。
 外国人の多いこの歓楽街でも、あんたたちの取り合わせははっきり言って目立つわ。よほど油断してない限り、気づかないはずがないわよ」
 うろたえる北斗にバッサリとそう言い捨てて、エンジェルはセルヒオに目を向ける。
「で、何しに来たの? ……聞くだけ野暮だったわね、あんたたちの目的はこれしかないんだから」
 鮮烈に赤いジャケットの上から、エンジェルは右の脇腹をポンと軽く叩いてみせる。先日と同様に利き手の逆側、右のショルダーホルスターに〈天使の銃〉を収めて持ち歩いているようだ。
 セルヒオはじっと黙ったまま、エンジェルの出方をうかがった。実力で取り押さえて〈天使の銃〉を入手しようと考えなかったわけではないが、それではあのマフィア連中と変わりない。今の所、こちらに〈天使の銃〉を向けてくる様子はないのだから、ひとまずエンジェルの敵にはならないよう慎重に行動するのがベターだとセルヒオは判断していた。
 エンジェルは銃を抜きこそしないものの、警戒を解く様子はない。1歩後ろに下がってセルヒオたちと距離を取り、油断なく2人を見つめる。
「この〈銃〉のことは、あんたたちも知ってるわね。
『己の正義に忠実であれ、しからばかの天使が祝福を与えん』――だったら、あんたたちの正義ってのは一体なに?
 私からこれを奪えたとして、その後どうする気? ギルドメンバーとやらは『正義の味方』を気取ってるみたいだけど、その崇高な目的のためにブッ放すの? それとも私のように個人的に使いたいクチ?」
「待ってくれエンジェル、君からそいつを奪い取るなんて一言も言ってないだろ?」
 割って入った北斗が、敵意がないことを示そうと両手を広げてエンジェルをなだめる。
「正直、俺にはその言葉が本当なのかどうかもわからないし、君が持ってる〈天使の銃〉が本当に何らかの力を持ち主に与えるマジックアイテムなのか、それともただのアンティークガンなのかもわからないんだ。
 ただ、なんて言うのか……興味がある。その〈銃〉と、あれほどの強行手段を使ってまでそれを手に入れた君自身にね」
「はあ? 面白くないジョークね。バカにすんのもたいがいにしなさいよ。
 ただ興味があるからついてきた? そんな寝ぼけた話、信じるとでも思ってんの?」
 エンジェルは大げさに肩をすくめ、露骨な疑いの目で北斗を睨みつけた。北斗は慌てて言葉を付け加える。
「もし奪い取る気があるなら、2対1のこの状況で何もしないはずがないじゃないか。
 少なくとも、今この場で君の敵にはならない。それは約束する」
「どうだか。今だってあんたたち2人とも銃は携帯してんでしょ? その気になればいつでも後ろから撃てるじゃないの」
 疑念のこもった視線でしばらくセルヒオたちを牽制していたエンジェルだったが、やがて飽きたのか、小さくため息をついて腰に手を当てた。
「ま、勝手にしたら? あんたたちが敵だろうが味方だろうが、どっちにしてもこれを渡す気なんかさらさらないし、いくらつきまとったところで無駄よ。……少なくとも、今はまだね」
 最後の一言は、誰に語るでもない独り言になっていた。自分の爪先に視線を落とし、エンジェルは自分自身に刻み込むかのように呟く。
「……そう、私にはまだやることがある。この〈銃〉の力を借りてでも、やらなきゃならないことがね。だから」
 視線をキッと上げ、エンジェルは決然と言い放った。
「絶対に私の邪魔をしないで。
 もし邪魔するのなら、誰であろうと容赦はしない!」
 言い終わるや否や、クルッと踵を返し突如駆け出すエンジェル。
「ちょっ……待つんだ! エンジェル!」
 北斗が叫んで後を追う。セルヒオも続く。
 エンジェルが駆けてゆく先には一軒のナイトクラブ。体格のいいダークスーツ姿の男が2人、門番として立っている。
 鬼気迫る形相で走ってくるブロンドの女、それを追ってくる2人の男を見て、門番たちは何事かと身構える。
「何だこの女!? おい、止まれ! この店に何のよ――」
 門番のうちの一人が、ことさらに威圧的な声を上げながらエンジェルの前に立ち塞がり、細い両肩を引っつかむ。と同時に、全身を大きくのけぞらせて痙攣し、声を失ったまま白目を剥いてドシャッとひっくり返った。
 いつの間に手に取ったのか、エンジェルの右手にはバチバチと耳障りな音を上げる携帯電話サイズのスタンガンが握られていた。大男を一撃で気絶させるとなると相当の高電圧、少なくとも60万ボルトを超えるクラスのものだろう。ギルドで流通している近接戦闘用のスタンロッド(電磁警棒)にも劣らない威力だ。
「く、このアマ――がふ!?」
 もう一人の門番は泡を食ってスーツの下から拳銃を抜こうとするが、それを構えることはできなかった。風のように走り込んできたセルヒオが鋭い膝蹴りを腹部に叩き込み、身体を二つに折って悶絶する男の首をすかさず小脇に抱えて締め上げる。的確に頚動脈を遮断するフロントチョークに、わずか2秒ほどで男の全身から力が抜け、その手からこぼれた拳銃が地面に転がった。
 セルヒオが腕を放すと、うつぶせのまま落下し、前頭部を地面に打ちつけた。それでも目を覚ます様子はない。完全に意識を失っている。
「……いくら協力したからって〈銃〉は渡せないって、言っておいたはずよ?」
「わかっている。対価を求めるつもりはない」
 セルヒオの手際のよさに感心して眉を上げつつも、エンジェルの言葉はあくまで素っ気無い。だがセルヒオは特に意に介していないようで、いつもの無感情な調子で返しながら、抜き放った愛銃ベレッタの銃口にサイレンサーを取り付けた。
「北斗、お前はこの2人と外を見張っていろ。意識を取り戻すことはないと思うが、仲間を呼ばれると面倒だ」
「おいセルヒオ、何する気だ! まさかお前まで殺人の片棒を担ぐつもりか!?」
「可能な限り殺しはしない。エンジェル単独では危険だろうから、俺がガードする」
「そこまでする必要あるのか!? この前みたいな、応戦しなければ俺たちも巻き込まれるって状況とは違うんだぞ!」
「うっかり殺されでもしたら、〈天使の銃〉が連中の元に戻ってしまう。それだけは避けねばならん事態だ」
 北斗とセルヒオがもめている間に、エンジェルは左脇のホルスターからベビー・イーグルを抜き、しっかりと両手に握った。
「フン、あんたたち、私のことを過小評価してるね。誰があんなクズどもに殺されてやるもんか」
 入口ドアの横の壁に張り付き、突入するタイミングをうかがう。すると反対側にセルヒオが無言で張り付いた。
「……まあ、協力するってんならせいぜい利用はさせてもらうよ。間違って撃たれても文句や訴訟は受け付けないからね」
「対価は求めていないと言っている。――行くぞ!」
 セルヒオが勢いよく前蹴りをくれると、蝶番が弾け飛んだドアはそのまま向こう側に倒れた。その場に取り残された北斗を尻目に、エンジェルとセルヒオは銃を構えて店内に飛び込む。たちまちナイトクラブは混乱の渦と化した。
「キャアアアァッ!?」
「なんだ、何事だ――ぐあっ!?」
 クラブのホステスや運悪く居合わせた客は、恐慌をきたして我先にとドアのなくなった出口へ殺到する。店を――正確には店に一時保管されている麻薬を――守ろうとして拳銃を抜いた者は、ことごとくセルヒオとエンジェルに制圧された。
 ひとしきり銃撃戦が続き、抵抗が完全になくなったところで、硝煙の匂いにまみれた2人は何事もなかったかのように言葉を交わす。
「お前が急所を外して撃つとは思わなかった。どういう心境の変化だ」
「この前は数が多すぎたし、スタングレネードじゃ確実に突破できるかどうかわからなかったからね。今回は殺しちゃまずい理由がある」
 苦悶のうめきがそこここから聞こえる中、エンジェルは手近な所に倒れていた黒服の一人に銃口を向け、荒い口調で問い詰めた。
「ここでドラッグの取引を仕切ってるブローカーは誰だい? 答えないとまた傷が増えるよ」
 黒服は激痛と恐怖とに震えながら、脚の傷口を押さえていた血だらけの手で、店の片隅を指差す。
 エンジェルは大股でそこへ歩いていくと、頭を抱えてテーブルの陰にうずくまっている貧相な白人の小男の襟元を、力いっぱい掴み上げた。
 最初からそこに避難していたためか、小男は全くの無傷だった。セルヒオたちを除くと、無傷なのはその男一人だけだ。
「お前か、組織の下請けやってるドラッグブローカーってのは。どうなんだ?」
「ヒ、ヒイィ……お、お、お前、何者なんだ……やめろ、放せっ……!」
 エンジェルよりも背の低い小男は、もはや体面も何もなく、エンジェルに至近距離から睨まれてガタガタと震えている。
「今までどれくらいブツを売った?」
「な、なにを言って……ゲハァッ!」
 背中から部屋の壁に叩きつけられ、息を詰まらせる小男。エンジェルは男の襟首を放さず、再度引き寄せる。
「お前の売ったブツで、どれほどの人間が人生を狂わされたか、考えたことがあるかい?」
「そ、そそそそんなこと言われても、俺だって組織の言う通りにしなきゃ消されグブッ!? ……お、お……」
 急所に遠慮なく膝を叩き込まれ、小男は泡を吹いて顔面蒼白になる。
 エンジェルの青い瞳に、あの高層ビルの時と同じ、途方もない憎悪と怒りに満ちた暗い光が宿っていた。
 さすがにこれ以上エスカレートしては危険だと判断し、セルヒオはエンジェルの肩に手をかけて制止する。
「それくらいにしておけ、エンジェル。こんな小物に八つ当たりしたところで意味はないだろう」
「……それもそうだね。じゃあこうしよう……質問に正直に答えたら見逃してやる、わかったな?」
 脂汗をびっしりと浮かべ、ガクンガクンと壊れた操り人形のように首を縦に振る小男。その顔面にさらに銃を突きつけ、ことさらにゆっくりと凄味を利かせた声でエンジェルは詰問する。
「お前らの組織のボスには、お気に入りの女がいるはずだろ? その女は普段どこにいる?」
「し、しし知らねえ……嘘じゃねえ、俺なんかボスの顔すら拝んだことねえんだ……いつも連絡員の命令を受けて、ブツを受け取って売りさばくだけで……」
「そうかい。ならもういい、消えな」
 エンジェルは憎しみと軽蔑とを込めてそう吐き捨てると、拳銃のグリップで小男のこめかみを殴りつけた。ガスッと鈍い音がし、小男は横ざまに倒れ込んでヒイヒイと見苦しくうめく。
「フン……こんなゴミのせいで何百人もの人生が狂わされてきたなんて、全く反吐が出るよ」
「その点は同感だ。メヒコでも麻薬の被害はひどいものだったが、最近は日本でもどんどんドラッグの市場が拡大しつつある」
 なぜか携帯電話を後生大事に抱えたまま床に転がる小男の背中に、さらにパンプスのヒールでストンピングをくれると、エンジェルは硝煙で少しすすけたブロンドをかきあげた。銃をホルスターに収めながら出口へと向かう。
 ――そのとき出し抜けに、複数のけたたましい銃声が外から響いた。
 ドアのなくなった出口から顔をのぞかせた北斗が、焦った声でセルヒオたちを呼ぶ。
「連中の仲間が見回りに来た! 早く逃げるぞ!」
「チッ、ついてないね!」
 しまったばかりのベビー・イーグルを再び抜き放ち、マガジンを素早く取り替えるエンジェル。すかさずスライドを引き、薬室に初弾を送り込む。
 一方、セルヒオは無言のまま低い姿勢で外に飛び出し、地面に腹ばいになって黒服たちの集団の姿を認めるや否や、マガジンに残る全弾を一気に撃ち放った。
 サイレンサーの先端から音もなく飛翔した弾丸が、次々に数十メートル先の目標を捉えてその場に昏倒させる。
「この辺りは例の組織の縄張りなんだ。急がないと人海戦術で逃げ道を塞がれるぞ」
「全員で固まって逃げれば、敵が一つの集団となって膨れ上がる。封鎖される前に散開して、各自に脱出すべき状況だ」
「頼れるものは自分の腕と悪運だけってこと? 上等じゃない」
 汗ばんだ手でジェリコをグッと握り直したエンジェルが、そう言って不敵に笑う。
「セルヒオに北斗、だっけ? あんたたち、生きてまた会えたら、そのときは味方だと信じてやってもいいよ。
 私の〈天使の銃〉が欲しかったら、まずはちゃんと生き延びることね」
「俺たちなら心配いらないよ。君こそ、こんなところで死ぬつもりはないだろう? 再会のときには、もう少し柔らかな物腰を身に付けていて欲しいね」
「フッ、言うじゃないの。ポリスマンの割にはなかなか気の利いたジョークだね」
「無駄話はそれまでにしろ。――GO!」
 ――無数の銃弾と怒声とが飛び交う真夜中の歓楽街を、それぞれに愛銃を手にした3つの影が猛然と駆け抜けていった。

 翌朝の新聞には、この銃撃戦は「マフィア同士の抗争の続き」として掲載された。
 無論、警察内部のギルドメンバーが巧みに情報を操作したためだ。
 エンジェルが襲撃した港の倉庫の事件は、おそらく永遠に一般市民に知らされることはないだろう。
 両方の事件の情報操作に関わった北斗は、自宅アパートで眠い目をこすりながら、割り切れない思いで独りぼやいた。
「あんたたちの正義ってのは一体なに、か……エンジェルもエレーヌさんも、難しいこと言ってくれるよなあ。
 そんなもん、答えなんてそう簡単には出せやしないよ」

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