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■Report-22 指輪

【指輪を渡す】

 夏祭の喧騒の中を進みながら、大守北斗はずっと考えていた。
 一緒に祭りに来ている姪っ子の初瀬美鶴とそのお友達の高階晶が目を輝かせて、屋台に夢中になっている。自分の隣を歩くエレーヌ・ケルブランは、その二人に時折声をかけながら、彼女たちがはしゃぐ様子を微笑ましげに眺めていた。
 いつ言い出すべきか。時折エレーヌの横顔を見ながら、北斗はため息をついた。今までも何度かチャンスはあったが、言葉を考えたり、躊躇しているうちに時間は過ぎてしまい、まだ口から一言も言い出せないでいた。
 エレーヌがらみ(多分)で色々と問題になっていた姪っ子の美鶴も、何があったのか最近は機嫌がいい。しかし、乙女心がわからない北斗としては怖いところである。できれば面倒事は起こしたくないが、エレーヌと会う機会もそうそう無い以上、ここで頑張るしかない。
 そうこうしているうちに、子供たちは次の獲物(わたあめ)目指して一直線だ。その様子に苦笑しつつ、ふと今がチャンスだと思い出した。
「実は、お渡ししたいものがあるんです」
 北斗は浴衣の袂からハンカチを取り出し、それに包んであったモノを取り出した。
 銀でもプラチナでもない白い輝きを放つ小さな指輪だ。魔法に長けているエレーヌなら、これが普通の指輪でないことは見ただけですぐにわかるだろう。
「先日の仕事で手に入れたものなんだけど、女性用の指輪を俺が持っていても仕方ないし……。それでエレーヌさんに貰ってもらえたらって思って」
 そう言って、北斗はその指輪をエレーヌの手のひらにそっと置いた。流石にカエルから貰ったとは言えなかった。いずれどこからか耳に入ってしまうとは思うが。
「『雫のエンゲージリング』っていうそうです。ギルドで調べてもらったら、氷冷と電雷に効果があるようで」
 できるだけ普通にしゃべっているつもりだが、顔が上気してくるのが自分でもわかる。
「ええと、これの名前が紛らわしいけど、今はまだそういうつもりがあるわけじゃなくって、あ、エレーヌさんと結婚したくないって意味じゃないです! ほら、まだ付き合い始めて半年も経ってないですし、この指輪もこういう名前がついているわけだし、おいそれと人にあげるわけにはいかないし。俺が指輪をプレゼントしておかしくないのってエレーヌさんだけだし。
 ええっと、そうじゃない」
 自分はいったい何を言っているのか。ただ、指輪を譲り渡すだけなのに、妙に言葉が多い。
「と、とりあえず細かいことは横に置いておいて、真面目に考えてですね、エンゲージとかじゃなくて、普通の指輪としてではあるんですけど、今の俺としては『雫のエンゲージリング』って名前のついているこの指輪をエレーヌさんだから受け取ってもらいたいんです」
 なんとか結論付けた。いちいち説明が長いような気もするが。
 そして、北斗は恐る恐る彼女の顔を覗き込んだ。
「あの……受け取ってもらえます?」

■あとがき
指輪はちゃんとエレーヌさんに受け取ってもらえました♪
この指輪な文章、どっちも掲示板に書き込んだ文章そのままなんです。
ふと思いついたので、書いてみたって感じで。

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