東京ガーディアンズ

■前夜祭 2/5

「拓也!?なんでこんな所にいるわけっ!?」
 京都ではかなり名の通った中学校の制服に見るからに運動部員らしい丸刈りと日焼けした顔。
 『東京』にいるはずのない人、だ。
「ちょっと、学校は――ええっ――ちょっと――ななな何するのよー――」
 椅子が倒れる音に南達が我に返ると、そこに阿月の姿はなくて。
「どういうこと!?」
 かれんが驚きの声を上げているうちに南は次の行動に移っていた。
「とりあえず追いかけるのよっ!!」
 鞄の中にノートやら教科書やらを詰め込み外に飛び出す。素早く辺りを見まわし、数百メートル先を物凄い速さで引きずられている――走っている阿月を見つけ出す。
「どうなってんのよ、一体?」
 めったに見れない阿月の間抜けな姿にあっけにとられながらも、とりあえず後を追いかける。
「南ちゃ〜ん、待って〜」
 後ろからかれんの情けない声が聞こえてくるが、聞こえないふりをして猛ダッシュ。
「待って〜、そんなに早く走れないわ〜」
 南が待ってくれないのを見てかれんも全速力で走り出し、後には和真と終わっていない数学の宿題だけが残された。


「待って〜」
 荒い息をつきながらかれんが足を止めると、そこにはなんとも不可解な顔をした阿月と南の姿。
「あ、やっと来た」
「仕方ないわよ。阿月ちゃんの鞄も持っていたんだから」
 ぜいぜいと肩で息をしながら阿月にトートバックを渡してやる。
「それで、一体どういうことなの?」
「それがねー」
 南が釈然としない顔で説明しようとするのを遮って、阿月が自分の横を指差した。
「ここに私の幼なじみがいるんだけど、南には見えないんだって」
 阿月の指差した場所に誰もいないのを見て、かれんも理解不能という表情を浮かべるに至ったのである。


「堀川拓也15才、京都では結構名の通った中高一貫校の中等部3年生で野球部所属。守備位置はショートで顔はこんな感じ」
 鞄からプリクラを出し、南達の前に出す。
「へ〜、いかにも野球部員って感じね」
「京都時代のご近所さんで、関係を端的に述べるならば南と和真くんってとこかな」
「まあ、苦労してるのね〜」
 しれっと凄いことを言いながらかれんは阿月の横――本人曰く拓也がいる所を見た。
「でも私にはやっぱり見えないわ」
「私も」
 二人にそう言われ、阿月は困ったように頭を掻き、そして横でにこにこ笑っている拓也を見る。
「そう言われても私にはしっかり見えてるわけだし……ええっ、バカっ!!そんなこと言ったら……もう、どうなっても知らないから!!」
 何もない空間に向かってひたすらまくし立て、裏手突っ込みまでしたりしている。
「あの……声まで聞こえたりするの?」
「もしかして、また私だけとか?」
「うん。友達じゃなかったら避けて歩きたい人に見えるわね」
「……」
 情け容赦ない現実を突きつけられ、よろよろと脱力しかけたところを拓也に腕を掴まれて無理やり立たされ――妙な格好で立ち上がり、すぐ近くにあった駅のほうへと引きずられて――またまた妙な格好で歩いて行く。
「どうしたの?」
「いや、折角だから東京案内してくれって」
 駅の階段をやはり妙な格好で降りて行く阿月の姿を見て、ここで逃げたら後が怖いよね、と頷き合い二人も仕方なく階段を降りていった。

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