東京ガーディアンズ

■夜に踊れば 3/12

-- Interval

 そこにいたのは一匹の獣だった。
「魑魅魍魎は京都の名物だけどっ……!!」
 柴犬を熊並の大きさにして、牙や爪をつけたような感じの異形の化け物。明らかに好意的ではないその雰囲気に阿月は一歩後ろに下がった。
 場所は住宅街の路地。深夜のそこに自分以外の人がいないことは分かりきっているし、助けを求めに行くにしても背中を見せたら相手は間違いなく自分を殺すだろう。
「こういうのはさすがにいなかったわよ!?」
 言い放ち鞄を投げつける。教科書や辞書が詰まったトートバッグが巨大犬の顔面にヒットするがさしたるダメージにはなっていないらしく、怒りの表情だけを浮かべて突進しようとする。
 が、
「鞄は囮っ!!」
巨大犬が鞄に気を取られている間に自分の間合いに入り喉を蹴り上げ、
「これでどうだっ!!!」
正拳突きを眉間に突き刺す。それで、終わり。
 巨大犬にとって不幸だったのは阿月がその道ではかなり名の知れた空手選手だったということだろう。


-- Dialoue3 何が正しいのか

 深夜の首都高を阿月と南はひた走っていた。ちなみに現在の速度は90キロ。噂の疾走少女が現れるのも時間の問題である。そんなことを阿月が考えていると
「速度出しすぎよ……」
と、不意に聞いたことのない女の声が聞こえてくる。
「それに二人乗りなんかして。あなたたちみたいな人の軽率な行為が、なんの罪もない人間の人生を奪うのよ!」
 まったくもってその通りなのだが見渡す限りでは少女は見当たらない。
「うひゃぁっ」
 南が情けない声を上げ、何かを振り払うような仕草をする。
「危ないからおとなしくしてっ!」
 バランスの悪くなった車体を懸命に立て直しながら阿月は精一杯の大声で叫ぶ。
「ってゆーかここにいるってば!!」
 叫び返した南を見てみれば確かに白い靄のような物がまとわりついている。
「それって反則じゃない!?」
 確かに、車に張り付いていれば中にいる人間にとっては『凄い速さで走る少女』に見えるだろう。どれだけの速さで足を動かしているのか期待していた阿月はがっくりと肩を落とした。
「とにかくやっつけるわよ!」
 かくして疾走少女vs女子高生二人組の戦いが始まったのだった。

 最初に動いたのは疾走少女だった。
「阿月っ!」
「分かってる!!」
 想像よりは遅いとはいえかなりのスピードで突っ込んでくる二人の疾走少女に対し阿月は弧を描くようにして回し蹴りを放つ。
「うそっ!?」
 しかし、確かに少女を薙いだはずの足にはなんの手ごたえもなくただ冷たい感触が残る。
「なるほど、本物の幽霊ってワケね」
 ヘルメットをかぶったまま体勢を立て直すその姿はさしずめ昔懐かしの戦隊もののノリなのだが生憎高速道路上にギャラリーは一人もいない。
「さて、どうやって対処するかな」
 南の方を見てみると少女に引き寄せられたらしい霊の対処に手一杯で、とても阿月の援護にまで手が回りそうにない。もっとも、武器が金属バットなので有効な攻撃を放てるとは思えなかったが。
 一瞬の間にそれだけのことを考えて少女のほうに意識を戻す。
「!」
 少女が真横にいた。自分の迂闊さを呪いつつ慌てて横殴りにしようとするがその手はやはり少女をすり抜けるだけである。それを確認し、相手の一撃を覚悟したその瞬間、少女が囁いた。


-- Dialogue4
  真実を突き付けられたならばどう対処すればいい?

「人殺し」
 攻撃に対して悲鳴を上げたのは体ではなく心だった。
「今までどれだけ殺してきたの?」
「何故、殺すの?」
気付いていながら目を逸らしていた現実に心が容赦なく抉られる。
「私たちは悪くなかった」
心が、痛む。
「もっと生きていたかった」

「死ぬべきなのは、アナタよ」


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