東京ガーディアンズ

■夜に踊れば 2/12

-- Interval

 初めて東京で「それ」を見たとき、阿月の反応はあっさりしたものだった。
 ああ、東京にもいるんだなぁ、と。
 つい数ヶ月前までいた京都の街にはいくらでも不思議な生き物がいた。もっとも、それらを実感できる人は本当に少なかったらしく下手に喋れば虚言癖があると思われかねなかったが、見えるだけで実害は無かったのでいつの間にか「日常の一コマ」として馴染んでしまったのだ。
 夜空をふわふわと飛び去っていく人魂を見送り再び歩き出そうとした時、背中を通りぬける冷たい感触に阿月は思わず足を止めた。
 そして、初めて見たのだ。
 悪意ある異形を。


-- Dialogue 2 笑顔の仮面で心を覆えば傷つかない

「で、次の『お仕事』は高速道路に出現する正体不明の少女の調査だって」
 エクリプス財団の受付ロビー。かなりの人数のエージェントの中に阿月と南の姿があった。
「私の携帯にはそんな依頼こなかったけど?」
「高速道路での『お仕事』だから免許証がいるんだって。この前偽造免許証を買ったから私にメールが来たんだと思う」
 偽造という言葉に南の頬がピクリと引きつる。
「偽造免許証って、そんなの何のために……。ってゆーか、それ以前に運転できるわけ?」
「だいじょーぶ!一応、講習みたいなものも受けたから。で、一人で行くのは不安だから南ちゃんも一緒に来てくれないかなーって、いうか来てくれるよね」
 あからさまに嫌そうな顔をしている南の手を握り、阿月は満面の笑みを浮かべる。
「高速道路を金属バットを振り回しつつ走り抜けていく女子高生二人組!これだけで首都高七不思議の一つはもらったも同然!!なんかわくわくするじゃない」
「いや、それはどうかと思うけど……」
 拳を握り締め力説する阿月を横目で見つつ南は手をひらひらと揺らす。
「とにかく無免許やスピード違反くらいじゃインパクトが薄いから二人乗りくらいした方がいいと思うのよ。それに敵が多いと一人じゃツライしね」
 確かに、格闘技主体の阿月では複数の敵を相手にするのは苦しいだろう。そう思って南は頷いた。
 首都高七不思議に惹かれたのも理由の一つではあるのだが。

 深夜1時、阿月と南はバイク二人乗りで高速道路へと向かっていた。
 バイクもヘルメットも財団が貸してくれたのだが南はトレードマークともいえる工事現場風ヘルメットをかぶっている。「これだって立派なヘルメット♪」と言うのだが、実は立派な道路交通法違反である。もっとも、今回は違反することが大前提なので突っ込みはしなかったが。
「でも、車と同じ位の速さで動くってことは相当素早いってこと〜?」
 南が後ろから叫ぶようにして話し掛けてくるが風とヘルメットに遮られほとんど聞き取れない。
「要は間合いに入ってきたらぶちのめせばいいんでしょ」
 同じように叫び返してからふと思う。
 それじゃあ、ただの人殺しだと。

 幸運にも世間一般の暴走族に出くわすこともなく阿月達は高速道路へと出た。まあ、出くわしたとしても不可抗力としてぶちのめしていただろうが、会わないほうが楽である。
「さて、出てくるかな?」
 目を閉じ、心を閉ざす。
「行こう」
 ヘルメットの下に笑顔を浮かべ、エンジンをふかす。
 少なくとも、この『お仕事』が終わるまでは自分の罪を忘れていられるように願いながら。


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