東京ガーディアンズ

■ある日曜日 2/3

 駅前なのに少し寂しい雰囲気なのは、商業地区でありながらオフィス街としても繁華街としても中途半端だからなのだろう。それが休日の夕方とのなればなおさらだ。
 携帯メールで指示された目的地に向かって歩きつつ、辺りをうかがう。駅からいくらか離れ、大通りから路地に、路地から裏道へと足を進める。目的地に近づくほど自然と人気が少なくなり、南はバットケースのファスナーを開けた。
「さすがに刀は持ってきてないし……!」
 すばやく取り出した金属バットが甲高い音を上げる。
 南の頭を狙ってきた物体を、バットが防いでいた。
 硬そうな大きな爪と変形した人に似た腕。それが、南を襲った物体である。持ち主は人が溶けてひょろ長く変形して固まりなおしたような形をした怪物。
 怪人、と呼ぶには正直な話、形がカッコ良くない。
 その怪物は、南の反応に少しうろたえた様だ。恐らく、今まで襲ってきた人間とは違う反応を見せたからだろう。普通なら、彼の姿を見ただけで悲鳴を上げて逃げるものだ。襲われたなら、悲鳴を上げる間もなく彼の餌食になっているはず。
 だが、生憎と南は獣人の上に普通の高校生ではなかった訳で。
 つまり、普段はそれこそ普通の女子高生だが、その実体は裏家業と称して人為らざるものと戦うエクプリス財団のエージェントだったりするのだ。
 先ほどまで練習試合に使っていた金属バットを剣のように構え、怪物と対峙する。
 携帯電話のメールは財団からの仕事の依頼。敵になる怪物の強さに応じてエージェントに指令を出しているとの事だから、目の前の怪物はランクが低い自分でも手に余るものではないと判断できる。
 しばしのにらみ合い。先に動いたのは怪物の方。しかし、南は伸ばされた腕とその先の爪の鋭い一撃をすれすれで避け、二撃目を沈み込むようにして避けて前進。バットを振りかぶり、確実な一打を与える。
 だが、南の腕に伝わった感触は、相手に大きなダメージを与えたものではない。所詮は金属バットということか。
 接敵している南を怪物の腕が再び襲う。慌てて、人とは思えぬ動きで南はその攻撃から飛び退き、にやりと笑った(ように見えた)怪物に対して悪態をつく。
「金属バットじゃ切るよか時間(手間)がかかるんだから!」
 体勢を崩した南に幾度となく襲い来る爪。狭い路地では派手な動きは取れない以上、無駄な動きを入ぬ為、出来るものは攻撃を紙一重で避け、出来ないものは全てバットではじき返す。
 相変わらず身体には傷一つつかないが、生憎スカートは爪の被害を免れなかったようである。
 だが、バットは折れることも曲がることも凹むことも無くすべての攻撃を防ぎきった。
 速いが単調なリズムの攻撃に慣れた南は、それこそ攻撃の隙間を縫って一気に間合いを詰め、力のこもった一撃で相手の細い胴体をぶっ叩く!
 攻撃が緩んだ隙にもう一撃、さらにもう一撃。
「財団特製の金属バットを舐めんなーー!」
 一見普通の金属バット。しかしその実体はエクプリス財団が開発した特殊合金製の金属バットである。強度はそこらのバットの比ではない。それを野球の試合で使うのはどうかとは思うが、それに関しては普通のバットを使ったって南にとって大差ないので問題は無いらしい。
 そして、最後はふらふらになった怪物の頭にバッティングの要領でサヨナラホームランなトドメを鮮やかに決めた。


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