東京ガーディアンズ

■ある日曜日 1/3

 5−3で負けてて、でも9回の裏2アウト満塁、サヨナラのチャンス。
「代打、八潮!」
 呼ばれた選手は小柄な身体にバットを携えてバッターボックスへ。
 その姿に相手チームからどよめきがあがる。
 八潮、と呼ばれた選手は高校球児にあるまじき長髪で……じゃなくて、少女だったわけで。
 彼女はイチローよろしくポーズを決めて、さぁかかってらっしゃいと最高の笑顔をピッチャーに向ける。

「お前が男だったらよかったのにな〜」
 練習試合を終えて球場がある都民公園から駅に向かう途中、先輩方は口々にそう言ってしきりに残念がる。
「ん〜、でも私が女なのは現実ですし、しかたないですよ♪」
 ポカリのペットボトルを手にしたサヨナラ満塁ホームランを決めた当の本人は、まったくもって残念がって無い様子。
 八潮南、某私立高校1年生。
 4月の部活説明会で野球部にマネージャー志望の女子生徒に混じって姿をあらわした少女は、選手として入部したいと口にし先輩や男子生徒を唖然とさせた。別に試合に出られなくても構わないし、野球がやりたいから野球部にきた、との彼女の言葉に顧問と監督はとりあえずOKを出した訳だが。
「夏の大会に選手登録できないのが本当に残念だよ。八潮を出せれば、もしかしたらもう少しは良いトコまでいけるかもしれないしさ〜」
 彼女は、走攻守そのどれをとっても超高校級(を期待させる)の逸材だったのである。
 それもそのはず。
 南は人間じゃなかったのだから。
 彼女の両親は普通に居る。普通じゃないのは母親が猫人間(化け猫ともいう)だったぐらいで、当然その血をひいている南も猫獣人だったりするのだ。運動神経は並みの人間以上、あえて上げる欠点は水泳が苦手なのとまたたびに弱いぐらいか?(←テスト済)
 ちなみに、野球好きは父の影響であって、獣人であることとは一切関係ない。
「できないことを嘆いたってしょうがないじゃないですか。現実見なきゃ〜☆」
 ほよよんと応える南に、一同ため息。
「南は元気よね。あなたが一番残念がってもよさそうなのに」
 同じ1年でマネージャーをしている少女がやれやれと横でつぶやく。それに対して、南はあっさり笑顔で応える。
「私は野球ができればそれでいいの♪」
 切符を買おうと財布を手にし料金表を見上げた時、南の携帯が鳴った。慣れた手つきで携帯メールの操作をし、文字を読む。
 再び料金表を見上げ、目的地までの料金を確認して切符を買う。
 目的地を変えた南に、少なくとも同じ方向に帰るはずだったマネージャーの少女が訝しがった。その彼女に、南はすまなさそうな顔をする。
「ちょっと用事ができちゃった」
 じゃあね〜と乗換駅で野球部のみんなと別れ、そして南は一人反対方向へ向かった。


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